第4話「僕、サードを守りたい。」

「僕、サードを守りたい。」
6年生になる春、監督に聞かれた次男の答えに、夢じいコーチは思わず声を上げてしまいました。
「えぇーっ⁉️ サード⁉️」

驚いたのも無理はありません。それまで次男はセンターを守っていました。少年野球では、外野よりも内野の方がはるかに守備の難易度が高い。中でもサードは、速い打球への反応と強い肩、的確な判断力が求められる“ホットコーナー”です。
しかも、夢じいの次男はというと……まぁ、ぽっちゃり系。いや、正直に言えばまるまる太っていた。動きはどこかのっそりしていて、俊敏さとは無縁。夢じいの心の声は「やめとけー!無理だってー!」と叫んでいました。

でも、本人がそう言ったのです。それを止める理由も資格も、夢じいにはありませんでした。
内心では、「まあ、すぐに挫折するだろう」と思っていました。体型も性格も、サードに向いているようには思えなかったのです。
ところが——。
数週間も経たないうちに、驚くような変化が現れました。
正面のゴロは、きっちりと腰を落として処理する。
少しショート寄りの打球にも、スライディングで飛び込んで止める。
そして一塁へ、力強く、まっすぐな送球。
「おぉ……うまいな……」
自分の息子なのに、夢じいは心から驚かされました。
もちろん、派手なプレーではありません。でも、ひとつひとつが丁寧で、確実。野球の基本を、真面目に、地道に、積み重ねていることが伝わってくる守備でした。
夢じいは「派手なファインプレーよりも、確実なプレーにこそ価値がある」と思っています。次男のプレースタイルは、まさにその言葉を体現していました。
このサードへの挑戦をきっかけに、次男はひとつのギアを上げました。
仲間たちがふざけ合っている時間も、黙々とノックを受ける。
「もう一球、お願いします」と自分から監督に声をかける。

自分の課題に、真正面から向き合い始めたのです。
そして、その努力は体にも表れてきました。
あれほど丸かった体が、日々の練習の中で徐々に引き締まっていきました。
最初はゼイゼイと息を切らせていたダッシュも、フォームが整い、スピードも明らかに速くなっていったのです。
もちろん、夢じいは何も言いませんでした。
ただ静かに、横で見守るだけ。
それでも、次男は一歩ずつ、自分の力で変わっていきました。

そして迎えた6年生の夏、最後の大会。
チームは順調に勝ち進み、決勝戦へ。
試合は一進一退の攻防。最終回、同点のままツーアウト満塁のチャンス。
バッターボックスには、我が次男。
「ここで回ってくるか……」
期待と不安が入り混じる中、夢じいは祈るようにベンチで見守っていました。
カーン!
乾いた打球音がグラウンドに響きました。
ボールは低く鋭く伸びていき、左中間を真っ二つに割りました。
外野手が追いつけない間に、一人、二人、三人がホームイン。
そして、次男もヘッドスライディングでホームに滑り込み——
ランニングホームラン。

スタンドから大歓声が巻き起こり、仲間たちがベンチから飛び出して次男を迎えました。
ベースを回るその姿に、夢じいはベンチの隅で、こっそり涙を拭っていました。
あの「えぇーっ⁉️ サード⁉️」と叫んだ日から始まった小さな挑戦が、ここまでの物語になったことが、ただただ嬉しくて、誇らしかったのです。

夢じいの一言:
「自分の背中を、自分で押せる子に育ってくれて、じいは嬉しい。」
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