第5話「ヒーローたちへの贈り物——夢じい、涙の卒部式」

グラウンドに吹く風が、どこか特別に感じられる3月のある日。
6年生にとって、そして夢じいにとっても、最後の試合の日がやってきました。
この日、行われたのは「卒部試合」。
6年生だけが出場できる、特別な公式戦です。
5年生の中には実力のある子もいましたが、ベンチから声援を送ります——これは伝統的なルールでした。
だからこそ、6年生たちは最後の一球まで、すべての力を込めて戦いました。
結果は、優勝。

最高の形で幕を下ろした試合のあと、グラウンドに少しだけ静かな時間が訪れました。
卒部式の始まりです。
監督が一人ひとりの名前を呼び上げ、選手たちはグラブを掲げて返事をする。
その姿を見守る夢じいにも、この日のために用意してきた“プレゼント”がありました。
それは、夢じい特製のフォトプレート。
6年生全員の写真を一つの額にまとめたもので、レギュラーとして活躍した子も、補欠として一瞬だけ出場した子も——全員が等しく輝く瞬間を夢じいが撮影し、収めたものでした。
夢じいにはこんな願いがありました。
「卒部式には、全員がヒーローになってほしい」
だからこそ、補欠の子が守備についた時、打席に立った時、少しのチャンスを懸命に掴もうとする姿を絶対に見逃さないようにしていたのです。
夢じいにとって、一番シャッターを切る手に力が入ったのは、そういった瞬間でした。
そしてもちろん、我が家の次男の姿も。
ある“例の瞬間”をしっかりと捉えたベストショットを選びました。
プレートの中では、誰もがヒーローに見えました。
「このバッティング、かっこよかったなあ」
「この時の守備、最高やったな」
渡すたびに、子どもたちは少し照れながらも、誇らしげに受け取ってくれました。
中には親御さんがそっと涙ぐむ場面もあり、夢じいの胸もいっぱいになりました。

夢じいの野球人生は、いつだって**“打撃のロマン”**でした。
ダイナミックに振り抜き、打球が空を切り裂く。とにかく「打つことがすべて」だったんです。
例えるなら、下駄を10枚履かせてもらって言えば、ソフトバンクの山川選手。
ホームランを夢見る、そんな野球に夢中でした。
一方、長男はその正反対。無駄のないフォームに、鉄壁の守備。
地味でも確実にチームを支える、そんな選手。
これまた下駄を履かせて言えば、西武の源田選手です。
そして次男はというと——その間を縫うような存在。
三塁手として難しい打球を落ち着いてさばき、ここぞの場面ではしっかり打ち返す。
夢じいの中では、巨人の岡本選手のような、勝負強さのある選手でした。
もちろん、プロ選手とは比べものにならない実力です。
でも夢じいの心の中では、二人とも間違いなく立派な“プロ選手”でした。
それぞれの個性を持ちながら、大好きな野球を通じて成長してくれた。
——それが、夢じいにとって何よりの誇りだったのです。

5年生から次男のチームに関わり、2年間一緒に戦ってきた夢じい。
長男のときは保護者席から声援を送る立場でしたが、次男のときはグラウンドの中で、選手たちと一緒に汗を流しました。
そしてこの日が、夢じいにとっても**“コーチとしての最終日”**。
卒部式が終わったあと、こらえていた涙がひとすじ、頬をつたいました。
それを袖でそっとぬぐいながら、夢じいは思いました。
——今日、あの子たち全員が、ヒーローになれた気がする。
夢じいが残したフォトプレートと涙が、いつか誰かの心に残ればいい。
そんなふうに願った、ある春の日のことでした。

夢じいの一言:
「最後はな、全員がヒーローになってほしかったんや。せめてプレートの中だけでも。——それが夢じいの願いやったんよ。」
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